| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-09  (Oral presentation)

ミズナラの開葉・道管形成時期と温度環境との関係
Timing of leaf-out and vessel-formation that is related to thermal environments in Quercus crispula

*石田清(弘前大学), 川辺慎也(弘前大学), 渡辺陽平(弘前大学), 白濱千紘(青森銀行(株)), 本城和佳(十文字チキンカンパニ), 宮沢良行(九州大学), 織部雄一朗(森林総合研究所)
*Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.), Shinya Kawabe(Hirosaki Univ.), Yohei Watanabe(Hirosaki Univ.), Chihiro Shirahama(Aomori Bank Co., Ltd.), Kazuyoshi Honjo(Jumonji Chikin Company), Yoshiyuki Miyazawa(Kyushu Univ.), Yuichiro Oribe(FFPRI)

寒冷地域に生育する環孔材樹種は、春の道管(孔圏道管)形成後に通道機能が回復し、シュート形成と光合成が可能となるため、春の道管形成時期を決める環境要因を明らかにすることは、気候変動に対する樹木集団の応答予測に役立つ。環孔材樹種のコナラでは、幹温度の上昇が道管形成を早めることが知られている。それでは、多雪地に生育する環孔材樹種の道管形成と開葉は、積雪による冷却で遅延しているだろうか?この問題を検討するため、演者らは青森県八甲田連峰においてミズナラを対象とした多雪地・少雪地間での集団間比較と除雪実験を行った。調査地域の消雪時期は4~5月と遅く、多雪地では樹幹下部の積算幹温度(樹幹部形成層の温度積算値)の増加速度が埋雪によって減少していた。道管成熟日(二次壁形成日)は積算幹温度で決まり、多雪地で遅延する傾向が認められた。早春に行った除雪実験では、幹回りの除雪によって道管成熟が促進する傾向が認められたが、道管拡大時期に現れる影響のパターンは場所・年度によって異なった。除雪の影響は成熟時の道管径にも現れ、除雪によって樹幹下部の道管径が1割程度大きくなる傾向が認められた。通道速度は道管径の4乗に比例することから、多雪地では春以降の光合成量が減少している可能性がある。開葉時期についても除雪の影響が認められ、除雪によって開芽から展葉までの期間が短縮する傾向が認められた。これらの結果に基づいて、本種が多雪地域で優占しない原因が積雪による幹の冷却によるとする仮説(幹冷却仮説)を提唱する。


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