| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) F03-04 (Oral presentation)
多様な植物や昆虫が生息する半自然草原は、20世紀以降急速に減少しており、その保全が急務となっている。温暖で多雨な日本では、草原は放棄されると森林へと遷移するため、草原は一般に、遷移初期の不安的な環境と考えられてきた。したがって、草原は人が管理してはじめて存続する生態系であり、草原が不要になったために放棄されて消失するのは仕方がない、と見なされることも多いように思われる。一方で、草原性チョウ類は、古くから大陸の草原、つまりステップ由来であることが指摘されてきた。ステップは乾燥した内陸に成立する安定的な草原であり、遷移初期ではない。遷移初期の不安的な環境に生息する昆虫と遷移後期の安定的環境に生息する昆虫では、生活史特性が異なることが知られる。もし、草原の本質が一般に考えられているように遷移初期で不安的な環境であるなら、草原性チョウ類は遷移初期環境に生息する生物の特性(多化性、広食性、移動性)を持つはずである。一方、草原性チョウ類が安定的環境に由来するなら、森林のような安定的環境に生息する生物の特性(年1化、狭食性、定住性)を持つと考えられる。そこで、草原性チョウ類の本来の特性と起源を解明するために、日本産温帯チョウ類を草原性種、撹乱地種、森林性種の三グループに分類し、草原性種と撹乱地種、森林性種の間で、世代数、幼虫の食性幅、絶滅危惧状況、分布域、固有性、大陸における生息環境を比較した。その結果、草原性種は森林性種と同様、年1化、狭食性の種の割合が高く、安定的な環境の種であることが示された。また、草原性種は、撹乱地種より狭域分布種、固有亜種が多く、大陸では安定的なステップに生息していた。以上の結果に基づくと、日本の草原性チョウ類を遷移初期種とみなすことは誤解を生じさせることとなる。近年の草原性チョウ類の減少理由や、完新世の間の草原性種の存続様式について考察したい。