| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-10  (Oral presentation)

温暖化影響に対するサンゴの適応:過去の高温ストレス経験によるサンゴ白化の緩和 【B】
Coral adaptation to climate change: historical thermal stress can reduce coral bleaching 【B】

*熊谷直喜, 山野博哉(国立環境研・生物セ)
*Naoki H. KUMAGAI, Hiroya YAMANO(Nat. Inst. Environ. Stud.)

気候変動影響が生態系を形成する生物群に生じると、より多くの生物に影響が及ぶ。サンゴ群集は最も気候変動影響に晒されている生態系のひとつである。サンゴは、過剰な温度ストレスを受けると、体内の共生藻類を減少させ“白化”する現象が知られており、白化が長期間継続するとサンゴは死に至る。白化現象は 1998 年に世界的規模で大発生して以降、数年毎に繰り返し生じ、2016年に再び世界規模の白化が起こった。一方でサンゴは過去の温度ストレスを通じて高温に適応し、白化しにくくなることがわかっているが、どのような地理的特徴やどれくらいの年スケールで過去の水温ストレスが影響しうるかは明らかになっていない。本研究では、日本のサンゴ礁域と高緯度サンゴ群集のそれぞれについて、環境省の調査などによる2013〜2017年の白化記録を解析し、さらに過去の高温ストレス履歴による影響について検証した。
広域的な白化の評価には、海表面水温を用いた積算水温ストレス指標Degree Heating Weeks(DHW)が有用だが、DHWによる白化の検出はしばしば地域や年によって誤判定となる。このため本研究では、濁度や紫外線量など他の環境要因のほか、過去の高温ストレスの指標として1998〜2017年のDHWを求め、1年前のDHW、1〜4年間の最大DHW、1年前〜1998年までの最大DHW、の3段階の指標を作成し、当年のDHWに加えて使用した場合の正当率向上を比較した。DHWの組み合わせ毎に白化推定の正当率を比較したところ、高緯度群集では前年までの水温影響を加えたときに最大、サンゴ礁域の白化・死亡の正答率は1998年までの履歴を加えたときに最大となり、長期的な環境ストレス履歴が白化耐性に影響することが分かった。このような地域的な水温ストレス履歴と保持期間を考慮した白化予測は、今後のサンゴ群集保全・再生のポテンシャルを検討する上で有用な判断材料になると期待できる。
本研究は、沖縄県サンゴ礁保全再生地域モデル事業の補助を受けて実施した。


日本生態学会