| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) L01-03 (Oral presentation)
サンゴ礁にすむニセクロスジギンポAspidontus taeniatusは、掃除魚ホンソメワケベラLabroides dimidiatusに体形・体色ともによく似ている。当初は主に水槽観察により、掃除魚と間違えて近づいてきた魚の鰭をかじる攻撃擬態とみなされた。一方、沖縄県瀬底島における定量的野外調査では、環形動物イバラカンザシの鰓冠やスズメダイ類の付着卵が主食で、鰭かじりの頻度は低かったことから、保護擬態として進化したのちに補足的に攻撃擬態を利用しているとの仮説が提唱された。最近になって、鰭かじりの頻度に地域差があることが報告されたが、その要因は特定されていない。そこで、瀬底島において生活史・個体群動態・季節変化等の基礎生態に関する調査を踏まえた上で摂餌行動の観察を改めて実施した結果、この擬態の真相解明につながるいくつかの新知見が得られた。まず、鰭かじりの頻度は小さいときほど高く、成長すると卵食の頻度が高まることが明らかになった。一方、主な餌であるイバラカンザシとヒメジャコガイは体サイズと無関係に利用していた。そこで、この2種類の餌生物が少ない場所(沖縄県石垣島)で摂餌行動を観察したところ、小型個体の鰭かじり頻度は瀬底島より有意に高かった。すなわち、加入場所の餌条件が悪いときは、卵食できる大きさになるまで鰭かじりに依存しており、これが攻撃擬態の進化要因であることが示唆された。一方、保護擬態の効果については、いまだに実証されていない。瀬底島では夏に加入した幼魚が急激に成長するものの、1年後まで生き残るのはわずか1割に満たないことから、保護擬態の効果が疑われたが、スズメダイ類の繁殖期が秋に終了することが高い死亡率と関係している可能性が浮上してきた。この可能性と保護擬態の効果を検証するため、繁殖期がより長く続く宮古島で、同属の非擬態種クロスジギンポとの比較調査を開始した。