| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) L01-07 (Oral presentation)
モグラ類は地下で生活し、ミミズを多く捕食する。日本のアズマモグラ(Mogera imaizumii、以下「アズマ」)とコウベモグラ(M. wogura、以下「コウベ」)では口端部の相対的な吻幅が広いコウベのほうが進化段階の進んだ種とされ、その適応的意義は大きなミミズをより速く食べられる点であると考えられてきた。アズマでは吻幅の広い個体ほどミミズ摂食速度が速くなるが、コウベでは未検討である。また、モグラのミミズ摂食行動にはミミズを頭端または尾端から食べる行動(通常摂食行動)と、ミミズの体の途中から食べ始め、ミミズを折り曲げて食べる行動(折り曲げ摂食行動)がある。これらの行動は狭いトンネルの中で空間的な制限を受けていると考えられる。本研究では両種のミミズ摂食行動に及ぼす吻幅等の頭骨形態と空間の制約の影響をミミズ15種732匹の摂食実験で検討した。
本研究では、アズマおよびコウベの摂食速度と吻幅の間には有意な関係がみられなかった(GLMM、アズマ:P=0.262、コウベ:P=0.907)。大型種のコウベでは折り曲げ摂食を行うことが多く(χ2=41.134、P<0.001)、トンネル内での空間の制約がミミズ摂食行動に影響した一例と考えられる。
通常および折り曲げ摂食時の全摂食時間に影響する要因についてGLMMで解析すると、いずれもミミズ摂食量とモグラの種の交互作用効果が有意となり、より大きなミミズを食べる時ほどコウベのほうがより速かった(通常:P=0.019、折り曲げ:P=0.003)。いずれの摂食行動でもミミズ摂食量と吻幅の交互作用効果によって摂食時間が減少し(通常:P=0.002、折り曲げ:P=0.001)、大きなミミズを食べる時に吻幅が広いと早く食べられることが示唆された。吻幅の拡大の究極要因の一つが、ミミズ摂食速度の増加であることが示された。