| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) L01-11  (Oral presentation)

飼育下にあるオリイオオコウモリの音声コミュニケーションに関する研究
Research on vocal communication in Ryukyu Flying-foxes (Pteropus dasymallus inopinatus)

*橋爪雅人, Christian E. Vincenot, 大手信人(京都大学)
*Masato Hashizume, Christian E. Vincenot, Nobuhito Ohte(Kyoto Univ.)

 琉球列島に生息するクビワオオコウモリは、他の島嶼地域に生息するオオコウモリ類と同じく、個体数の減少が懸念されている。本種は生息地に生育する植物の種子散布や花粉媒介の機能も果たしていることから、個体数減少が、森林生態系の構造に影響する可能性がある。本種は大きな群れをなさないため、地域群集の動態に関する包括的な知見を得ることが難しく、これまで特定の集団を対象とした局所的な調査しか行われてこなかった。そのため本研究では、鳴き声を利用した受動的音響モニタリング(PAM)を広域での生態調査に適用することを目指して、本種が発する鳴音種の分類手法の開発を行った。
 2017年冬から2018年秋にかけて、録音機とビデオカメラを用いて、動物園の飼育個体の観察を行った。コウモリの鳴き声を、鳴き声の最小単位である音節に分割した後、各音節から音響学的特徴量を説明変数として抽出した。その後、発声時の文脈的特徴、および鳴音のスペクトル構造の外観の違いにより、発声行動およびその鳴音種を11種に分類した。
 SVMを用いた判別分析により、少なくとも4つの鳴音種では、音響学的に有意に異なることを示すことができ、真値に対して平均正解率が最大90%以上で判別することができた。一方で、敵対的な鳴音種では、平均正解率は最大でも90%未満となり、判別境界は曖昧であった。全体の判別の正解率は、非線形SVMを用い、特徴量に持続時間・卓越周波数・MFCCを用いた方法で最大となった。しかし、特徴量にΔMFCCやΔΔMFCCを加えることにより正解率は低下した。
 鳴音種判別に続き、日常的に発せられ、最も発声頻度が高い“闘争時の威嚇”鳴音から、発声個体の雌雄が判別できるかを、上記と同様の方法で調べた。平均正解率は最大81%となった。また、雌雄の正解率の偏りは僅かであった。
 今後は、PAMシステムの実用性を調べるために、野外での広域的な録音と解析を行い、鳴音の取得、分類の方法について検討を行う。


日本生態学会