| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) L02-04 (Oral presentation)
繁殖中の海鳥は定期的に雛へ給餌するため、コロニーの近傍で繰り返し採餌を行い、採餌行動圏と呼ばれる一定のエリアを形作る。複数の同種コロニーが近接している場合には、種内競争をできるだけ回避するよう個体が分布し、結果として採餌行動圏は2つのコロニーの中間ラインで分離することが予想される(Hinterland model)。
こうした採餌行動圏のコロニー間分離は実際に多くの海鳥で報告されている。しかし、分離の有無はおもに個体分布の見た目から主観的に判断されており、定量的な議論を欠いている。たいていの場合、分離の境界線は不明瞭で採餌行動圏にはある程度の重複があるため、本当に分離があるのか議論の余地があった。そこで本研究では、アデリーペンギンPygoscelis adeliaeの2つの近接コロニーにおいて採餌行動圏の分離を定量化し、統計的な手法により分離の有意性を評価した。
野外調査は2016-2017年に南極昭和基地近くの2つの繁殖地で行った。育雛中のアデリーペンギン49個体へGPSロガーを装着し、採餌中の移動軌跡を得た。コロニー間の分離を評価するため、分離なしと仮定した場合のnull modelとしてランダムウォークにより仮想的な移動軌跡をシミュレートした。現実とシミュレーションそれぞれの移動軌跡について、コロニー間の採餌行動圏の重複を指標化して比較した。
観察されたアデリーペンギンの採餌レンジはコロニーから平均10km程度で、コロニー間距離(2km)と比べてはるかに長かった。そのため2つのコロニーの採餌行動圏は互いに半分以上重なっていた。しかしシミュレーション結果との比較では重複が有意に小さく、分離していることが明らかになった。この分離により採餌のコアエリア(利用率50%以上)の重複が20%以上減っていた。これらの結果は、2つのコロニーが餌資源をめぐる競争関係にありながら、異なる採餌場所を利用することで共存していることを示唆している。