| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(口頭発表) L02-06 (Oral presentation)
卵の孵化には、親の捕食者と卵の捕食者、孵化後の子の捕食者の存在が影響を与える可能性がある。これまで、両生類や魚類、昆虫類を用いた研究により、卵捕食者の存在によって孵化タイミングが早まること、一方で孵化後の子の捕食者の存在によって孵化タイミングが遅れることなどが報告されている。しかし、親の捕食者の存在が、孵化のタイミングに与える影響を調べた研究は非常に少ない。また、海洋の無脊椎動物でも、卵捕食者の存在で孵化タイミングが変わる可能性が室内実験によって数例報告されているが、野外の実際の生息地において、捕食者の存在が孵化タイミングに与える影響を調べた研究は存在しない。本研究では、岩礁潮間帯に生息する藻食性笠貝キクノハナガイSiphonaria siriusと、その成体(親)の捕食者であるイボニシThais clavigeraおよび卵の捕食者であるシマレイシガイダマシMorula musivaという2種の巻貝を対象とし、まず、親捕食者と卵捕食者の存在がキクノハナガイの卵の孵化タイミングに与える影響を野外実験によって調べた。その結果、卵捕食者の存在下でのみ、孵化が早まることが示された。続いて、胚が自ら孵化のタイミングを決めているかどうかを明らかにするために、産卵前から産卵直後まで卵捕食者が存在する処理区と、産卵直後から孵化まで存在する処理区を設けて野外実験を行った。その結果、産卵後に卵捕食者が存在することで、孵化が早まることが示された。つまり、親が卵サイズ等を調節して孵化を早めているのではなく、胚が自身の被食リスクに応じて孵化を早めていると考えられた。卵捕食者が存在する際のキクノハナガイの胚発生は約4日と、有力な卵捕食者が知られていない近縁種の発生と比べて非常に早いことからも、この現象は、卵捕食者に対する有効な対捕食者反応であることが示唆される。