| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム ME01-2  (Presentation in Symposium)

細胞生物学・発生生物学と生態学の接点〜線虫種間比較研究をモデルケースとして
The intersection of developmental/cell biology and ecology: comparative analysis using closely related nematode species

*杉本亜砂子(東北大学生命科学)
*Asako Sugimoto(Tohoku University)

線虫Caenorhabditis elegansは培養の容易さ、世代時間の短さ、再現性の極めて高い発生過程などの特徴により、細胞生物学・発生生物学分野において優れたモデル生物として使用されてきた。最近、C. elegansともっともゲノム配列が近い近縁種C. inopinataが沖縄県石垣島で発見されたが、興味深いことにこの線虫はC. elegansと多数の形質が顕著に異なっている。C. elegansはヨーロッパ・ハワイ・東アジア等の多様な環境に生育するジェネラリストであるのに対しC. inopinataは特定のイチジク種(オオバイヌビワ Ficus septica)の花嚢で生育するスペシャリストであり、生殖システム(雌雄同体 vs. 雌雄異体)、体長(約2倍)、至適温度(20℃ vs. 27℃)などにも大きな違いがある。C. inopinataゲノムにはC. elegans の約10倍のトランスポゾンが存在することから、トランスポゾンの転移によりゲノム進化が加速されている可能性が示唆された。また、細胞間シグナル伝達に関与する7回膜貫通型レセプター遺伝子(GPCR)はC. elegansでは約1400存在するのに対してC. inopinata においては約400と少なく、イチジク花嚢という限定された環境での生育がGPCRファミリーの縮小と関連している可能性がある。われわれはすでにC. inopinataにおける遺伝子操作技術を確立しており、形質の進化を引き起こす遺伝的要因を分子遺伝学的手法を駆使して解明することをめざしている。本講演では、生態学者との共同研究の現状と今後の展望についても議論したい。


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