| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
シンポジウム ME01-4 (Presentation in Symposium)
種ごとに異なる行動様式はどのようにして進化したのか。あるいは、行動の違いは同所的種分化のきっかけとなるのであろうか。多くのnaturalistsにとって行動の多様性の起源は、最も心惹かれる謎の一つであろう。にも拘らず、この問題に真正面から取り組んだ研究は驚くほど少ない。昨今の、形態の多様性に着目して進化の分子機構を追求する分野の興隆とはあまりにも対照的である。私はこれまでの30年間に、モデル生物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用いて求愛行動に関わる遺伝子群の同定を行い、それを基盤としてこの行動を生み出す神経回路の解明につとめて来た。この研究を始めたそもそもの動機は、行動の「枝分かれ」から種分化へと進む機構を知りたいということであった。この目的を達成するためには、種間(特に近縁種間)での行動の違いを生み出す神経機構の特定と、その差を進化の過程で生み出した遺伝子の変異の特定が不可欠である。モデル種を用い、求愛行動回路の“ハブ”とその構築を支配する遺伝子を明らかにできたのは最近のことであるが、幸いにもここに至って従来全く歯の立たなかった“other species”に対して遺伝子を改変することが可能になったわけである。現在、数名の共同研究者たちと共に、遺伝子編集したD. subobscuraを用い、求愛行動回路の標識、光遺伝学的刺激による行動誘発、Ca2+-imagingによる神経活動記録に取り組んでいる。D. subobscuraは、雄が雌に口移しで消化物を与える婚姻贈呈という新奇な行動を獲得したDrosophilaでは稀有な種であり、その行動進化の謎解きが目的である。また、D. melanogasterと近縁種であるD. simulansの種間雑種個体を利用して、種特異的な配偶者選択が進化した機構の解明も試みている。