| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-009 (Poster presentation)
日本固有種ニホンテン(Martes melampus)は,北海道では国内外来種として,現在,渡島半島から石狩低地帯まで分布を拡大している.そのため,在来のクロテン(Martes zibellina)の分布域が石狩低地帯以東に狭められ,両種が競合関係にあると考えられている.今後さらにニホンテンの分布が東側に拡大し,クロテンの分布が縮小する可能性がある.環境省は移入されたニホンテンを生態系被害防止外来種リストに指定した.これまでのミトコンドリアDNAとマイクロサテライトを用いた集団遺伝学的な解析により,北海道のニホンテン集団は複数の起源をもっていることが報告されている(Inoue et al., 2010; Kamada et al., 2013).しかし,北海道における生物学的な情報は分布情報のみであり,具体的な管理施策には至っていない.そこで本研究では,糞DNA分析に基づいて西岡地域(札幌)を調査し,ニホンテンの遺伝的集団構造と環境選好性を明らかにした.調査は2016年から2018年までの期間に66回行い,外見からニホンテンのものと考えられる糞245個を採取した.ミトコンドリアDNAの塩基配列解析により,207個の糞がニホンテン由来であることを特定した.その糞DNAについて,マイクロサテライト解析に基づいた個体識別と性染色体上遺伝子解析による性判定を行った結果,73個の糞が17個体(オス15,メス1,不明1)に由来した.有意な近交係数が示されなかったことから,西岡個体群は,任意交配していることが示唆された.また,年ごとに確認された遺伝的グループが異なったことから,集団の入れ替わりが示された.これらは,西岡地域が閉鎖的でないことに起因すると考えられた.一方で,糞の採取地点に基づいてQGISによりニホンテンの環境選好性を解析した結果,小さなトドマツ林への強い選好性が見られ,落葉広葉樹林を避ける傾向が見られた.これは,落葉広葉樹林を好み,針葉樹林を避ける傾向にある対馬や群馬県の亜高山帯に生息するニホンテン在来個体群の環境選好性と異なった.