| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-015 (Poster presentation)
伊豆諸島の御蔵島はオオミズナギドリの世界最大の繁殖地である。近年、オオミズナギドリの個体数は激減しており、その主要因はノネコによる捕食と考えられている。これまでの研究により、ノネコが冬季に外来のネズミ類に依存し個体数を維持することが、オオミズナギドリに負の影響を与える仕組みの一つであることが示唆されている。このように、外来の捕食者が他の外来種によるボトムアップ効果により強い影響を与え続ける現象はhyperpredationとして知られている。
御蔵島はオオミズナギドリの滞在(3〜11月)・不在(12〜2月)による時間的な異質性と、営巣地の有無と植生における空間的な異質性が存在する。そのため、ノネコ-ネズミ類-オオミズナギドリにおけるhyperpredationのプロセスを理解するためには、捕食被食関係の時空間的な変化を把握することが重要となる。そこで本研究では、安定同位体比分析、自動撮影カメラ、カゴ罠(ネズミ類のみ)を用いてノネコとネズミ類の食性と空間分布の季節変化を調べた。
夏季においては、ノネコとドブネズミは営巣地付近で高密度に生息が確認され、同位体比分析でオオミズナギドリに強く依存することがわかった。一方で、クマネズミは高標高で高密度に生息し、植物質への依存度が高かった。また、ノネコの撮影頻度と個体識別結果は、他の島嶼よりも極めて高い生息密度と、行動圏の狭さを示唆した。これらの結果から、夏季はノネコとドブネズミがオオミズナギドリを主要な餌資源とし、特にノネコは営巣地に高密度に生息することで強い捕食圧を与えていると考えられる。
冬季は島全体でドブネズミの捕獲率が高かったが、クマネズミでは低かった。また、ノネコの冬季の餌資源において、ドブネズミはクマネズミよりも高い貢献を示した。これらの結果から、冬季は活動性が高く捕食されやすいドブネズミがノネコの個体数を維持する重要な餌資源となることでオオミズナギドリへのhyperpredationが生じていることが示唆された。