| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-017 (Poster presentation)
日本を代表する侵略的外来種であるコクチバス(Micropterus dolomieu)は北米を原産地とする肉食魚であり、1990年頃に日本に定着して以降全国の湖沼や河川に分布を広げ、各地で大きな環境問題となっている。信濃川の上~中流部にあたる長野県・千曲川でもコクチバスの侵入および分布拡大によって生態系は大きく変化し、アユやウグイの漁獲量減少などとの関連も指摘されている。現在も千曲川中流域を中心にコクチバスは急増している一方で、コクチバスの現在の正確な分布域は不明であり、分布拡大のプロセスもわかっていない。したがって、コクチバスの分布拡大を防止するためには分散経路を特定し、分布拡大の実態を把握することが重要である。本研究ではこれら背景を踏まえ、1)多型性の高い核DNAマイクロサテライトマーカーを用いてコクチバスの集団構造を把握し、2)MAXENTを利用した種分布モデルの構築によって分布拡大の予測を行うことで、本種の集団動態を理解し、生態系管理の基礎情報を得ることを目的とした。
採取地、採取年の異なる49集団413個体を用いて集団遺伝学的解析を行った結果、流域内の明確な遺伝構造は見られなかった。しかし、年次間比較から、2018年集団は2017年に比べ、有意な集団分化の低下および遺伝的多様性の増加が検出され、最近の遺伝子流動の促進が強く示唆された。また、種分布モデルの結果はコクチバスがさらに上流まで侵入可能であることを示唆し、上流域でのモニタリングの重要性が示された。さらに、先行研究(Diedericks et al., 2018)の原産地の歴史的および現在の集団の遺伝データと統合したところ、原産地では現在すでに絶滅した可能性のある遺伝的系統が千曲川から検出され、外来種について遺伝資源保全の観点から新たな議論が必要であることも示された。