| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-023 (Poster presentation)
近年、生物多様性保全の面で重要視されはじめている都市の生態系において、イエネコは深刻な影響を与えていることがわかっている。また、都市部においてイエネコは、糞尿による公衆衛生の悪化、人獣感染症のリスク上昇などの悪影響ももたらしている。これらの影響を緩和するためには、イエネコの飼主や愛好家、さらには飼主以外も巻き込んだ多様なステークホルダーからの協力を伴うイエネコの管理が欠かせない。しかし、ステークホルダー間で、イエネコの管理への認識の違いがあり、軋轢が生じているため、効率的かつ効果的な管理の実施が困難になっている。このような背景から、イエネコの管理における軋轢緩和に資するため、情報提供が、人々のイエネコの管理に対する関心や選好に及ぼす影響を把握することを目的とした。
本研究では、多様なステークホルダーを想定した被験者(調査会社のモニターとなっている首都圏の一般市民35名)を対象に、イエネコの管理について話し合ってもらうグループミーティング調査とアンケート調査を実施した。これら調査は、専門的な情報提供の有無、ネコの飼養の有無などにより、被験者らを6グループに分けて行った。
話し合いの内容に関する定性的データの分析の結果、情報提供を行わないグループより情報提供を行ったグループの方が、話し合いの内容に関するグループ間の差が小さくなる傾向がみられた。一方で、アンケートによる定量的データの分析の結果、情報提供を行わないグループより、情報提供を行ったグループの方が被験者の選好が多様になる傾向が見られた。これらの結果より、情報提供は、人々の関心や話し合いの内容をある事柄に集中させるためには、有効な手段であるが、人々の選好の多様性の収束、つまり軋轢緩和の手段としては有効ではない可能性が示唆された。