| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-029 (Poster presentation)
淡路島の伝統的な棚田の畦畔では、畦畔草原としてよく知られるチガヤ群落の他に、低茎化したネザサがシバ状に生育・優占する群落が散見される。このような「低茎ネザサ群落」の存在は、既往の研究では知られていない。そこで低茎ネザサ群落の特性を明らかにすることを目的として、組成・分布・立地・動態について、淡路島の棚田地帯で2018年4月~12月にかけて調査した。
春季・秋季に植生調査を行い、種組成に基づいてTWINSPAN、DCAを行ったところ、低茎ネザサ群落はチガヤ群落とは別タイプの群落としてまとめられた。チガヤ群落と共通する在来の草原生植物が多かったが、それぞれの群落に特徴的に出現する種もあり、双方の群落があることで地域の草原生植物の多様性が保たれると考えられた。分布調査では、低茎ネザサ群落は淡路島全域で確認され、島内では一般的な群落であると考えられた。立地の調査では、畦畔の傾斜は低茎ネザサ群落(51.3°±10.4)がチガヤ群落(41.3°±11.6)よりも急傾斜であり、また、畦畔下部に付随する構造物は、低茎ネザサ群落では自然石などの石垣を伴う例が多かったのに対し、チガヤ群落では1960年代以降に普及した間知ブロックを伴う例が多かった。傾斜および畦畔付随構造物から、低茎ネザサ群落はチガヤ群落に比べ、より古い時代に造成された畦畔に成立していることが示唆された。年間の草刈り回数は、低茎ネザサ群落は3~5回で、チガヤ群落の2~3回よりも多かったが、草刈り前後の植被率と群落高の変化は、低茎ネザサ群落の方が小さかった。このことから、1回の草刈りや集草の労力はチガヤ群落よりも軽微である可能性が示唆された。低茎ネザサ群落では、草刈りの直後の植被率の落ち込みがほとんど無かったが、チガヤ群落では草刈りによって植被率が大幅に落ち込んだ。このことから、低茎ネザサ群落は年間を通じて植被率の高い状態を保ち、土壌の雨滴浸食を抑制する機能がチガヤ群落よりも大きいと考えられた。