| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-032 (Poster presentation)
最終氷期最寒冷期直前の気候変動が南九州の植物相の変化に与えた影響の解明のため,宮崎県えびの市の標高約270mに位置する溝園層の大型植物化石の分析を行った.大型植物化石を含む地層は,えびの市佐牛野の地層では約35,400~35,000年前,久保原の地層では約33,000~32,100年前の放射性炭素年代値が得られており,最終氷期最寒冷期(約30,000~19,000年前)より前の亜間氷期MIS3に相当する.佐牛野(約35,400~35,000年前)の5層準,久保原(約33,000~32,100年前)の4層準の大型植物化石を含む堆積物を水洗篩別し,実体顕微鏡下で大型植物化石を拾い出し,同定・計数を行った.その結果,木本化石総数に占めるマツ科針葉樹化石の個数割合は,約35,400~35,000年前の化石群で極めて高い割合を示したのに対し,約33,000~32,100年前の層準では割合が減少した.それに伴い,落葉広葉樹の化石の個数割合は,約35,400~35,000年前に比べ約33,000~32,100年前の層準で増加した.約33,000~32,100年前の層準では,日当たりを好むキジムシロ属,タケニグサ,カナムグラ,スゲ属シバスゲ節といった草本が増加し,水生植物のスギナモやバイカモが出現した.既往の溝園層の花粉分析の結果からは,最終氷期最寒冷期にかけての寒冷化の過程で,一時的にマツ科針葉樹の花粉割合が減少する時期があることが知られているが,本研究では,最終氷期最寒冷期に近い約33,000~32,100年前の層準でマツ科針葉樹の大型植物化石の産出割合の減少が認められた.草本の結果と合わせると,この時期にマツ科針葉樹が減少し,一部が落葉広葉樹に置き換わったことで光環境が改善され,日当たりを好む草本の増加につながった可能性が考えられる.マツ科針葉樹の減少には一時的な夏モンスーンの卓越による温暖化や降水量の増加がかかわっている可能性があり,湿地性の草本の増加も,この気候変化に対応していた可能性がある.