| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-033 (Poster presentation)
シカをはじめとした大型有蹄類が生態系に及ぼす影響の中でも、林床植生の改変は顕著な問題である。シカの存在により植物群集の多様性、植被率が変化することは知られているが、背景にある個々の植物種の詳細な応答については不明瞭である。採食圧下に成立する植物群集の構造を知ることは、生態系管理の上で重要である。
そこで本研究ではシカの在不在により種の構成が変化するメカニズムを、機能形質を用いて解明することを目的とした。機能形質間にはトレードオフの関係があり、それにより生存戦略が変化する。形質の違いから推測できる戦略の違いに着目し群集が変化する要因を考察した。防鹿柵が設置されている知床国立公園内天然林を調査対象地として、柵内外で共通して出現する植物の比較を行った。
この結果、シカの在不在で撹乱頻度、競争強度の異なる環境が成立し、異なる資源投資戦略、サイズ特性を持つ種がより有利な環境で優占することで種組成の変化が起きているということが推測された。シカの過採食下で相対優占度が高くなる種はサイズが小さく、葉強度における柵内外での種内の変化の幅が大きいという特徴があることが得られた。これは過採食により葉を失うリスクが高いことへの適応の可能性が考えらえる。一方シカのいない環境下で相対優占度が高くなる種には、サイズが大きく、葉面積、植物高において柵内外での種内の変化の幅が大きいという特徴があった。これは採食圧がなくなり植被率が上昇し、競争の影響が大きくなることへの適応の可能性が考えられる。
本研究より、形質の種内変異の種間での違いは採食圧下において群集構造を決定する大きな要因であることが示唆された。さらに、柵によって囲われた環境が競争に強い種のみに有利になっていることを、機能形質を用いたアプローチにより見出した。柵の設置だけでは生物多様性の保全に不十分であり、今後の保全方法には再考が求められる。