| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-036 (Poster presentation)
玉原湿原は,群馬県北部の標高1200mに位置する中間湿原である.ここでは,排水路の掘削(1942年)や,木道設置(1982年)により,地下水位の低下と低木のハイイヌツゲの侵入が見られ,1993年から人工排水路への堰設置,木道撤去やハイイヌツゲ刈り取りといった保全対策が行われた.
本研究は,植物社会学的植生調査と現存植生図作成を行い種組成や群落分布を,地下水位と水質の測定を行い水環境を,それぞれ明らかにし,両者を比較することでその関係を解明した.また,これらを保全対策前と比較し,中間湿原植生への回復状況から保全対策の効果を検証した.
植生調査の結果,玉原湿原の植物群落は,中間湿原植生に加え,低木林,低層湿原植生,中間湿原植生より組成が単純な中間湿原植生+低木の4タイプに区別された.水環境と群落分布との関係を見ると,夏の水位低下が大きい立地には,中間湿原植生+低木が分布し,夏の水位が低くなると,湿原性植物が生育できず,組成が単純な群落になると考えられた.また,中間湿原植生と低層湿原植生との水環境の違いとしてpHやECが見られた.中間湿原植生は地下水で涵養される場所に,低層湿原植生は表流水が見られる場所に,それぞれ分布し,供給源の水の水質の違いが両植生を分ける事が考えられた.保全対策前後の群落分布を比較すると,保全対策前に木道や人工排水路周辺に広がったハイイヌツゲの群落は縮小し,中間湿原植生が見られた.これは,刈り取りによるハイイヌツゲ樹勢の低下と堰設置による水位上昇により,ハイイヌツゲの再生を抑制したことや,木道撤去により表流水や土砂が流入したことで,湿原植物の侵入が促進されたためであると考えられる.しかし,保全対策後に地下水位の上昇が見られたものの,夏の水位が他所より低い場所では,ヌマガヤが優占する単純な組成の群落が広がり,中間湿原植生の復元は途中段階であった.