| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-037 (Poster presentation)
伊豆大島では、火山一次遷移を把握することができる。一方、大島では外来草食獣のキョン(Muntiacus reevesi)が近年急増し(約15,000頭)、農作物被害が深刻化している。大島には在来の草食獣が本来分布せず、キョンによる生態系への影響が懸念されているが、大島の植生の特徴である火山一次遷移にキョンが与える影響は検討されていない。そこで、本研究では伊豆大島三原山にある年代の異なる3溶岩を用いてキョン増加前の2005年とキョン増加後の2018年の遷移系列を比較し、キョン増加後の火山一次遷移の偏向の有無を検討した。
植生調査と毎木調査を三原山(758 m)カルデラ内の同一標高上に位置する1778年噴火・1951年噴火・1986年噴火を起源とする3溶岩流で行った。キョン増加前後の林分構造の変化を見るために各層の植被率と出現種数について二群比較を行った。キョン増加前後の種組成の変化を見るためにNMDSによる序列化と各溶岩における2005年と2018年の各種の常在度の比較を行った。
植被率、出現種数ともに低木層と草本層において2005年と2018年で遷移系列の不一致が見られた。1951年溶岩では草本層の植被率が減少し、1778年溶岩では低木層・草本層の植被率および出現種数が減少した。また、NMDS解析の結果、1軸は溶岩の年代と対応していた。しかし、2005年と2018年の比較では1778年溶岩上で1軸ではなく2軸方向の変化が見られた。常在度については1778年溶岩で常緑広葉樹であるアオキや、絶滅危惧種であるシマガマズミの減少が見られた。以上より、キョン増加後の遷移系列は部分的に偏向していると考えられる。特に、年代の古い溶岩上では偏向的な傾向が強いと考えられる。大島においてキョンの防除と植生保護の策を進める場合、特に、遷移が進行した森林の低木・林床植生に対する対策を優先する必要があると考えられる。