| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-054 (Poster presentation)
高度経済成長期に植栽された樹木の倒木リスクが懸念されている。他方で樹木や樹林は地域の気候を緩和し心理的ストレスを和らげる効果を持つため,リスクを客観的に評価し、バランスよく樹木と共生する方法を考える必要がある。この研究では力学計算による倒木リスクの算出と、実際の台風による倒木の状況調査を行った.力学計算による倒木リスクの算出では横浜国立大学構内の環境保全林を構成する樹木の胸高直径,樹幹の長さ,傾き,樹冠投影図を測定した.樹木は長さが樹幹長で太さが胸高直径の円柱を仮定し,樹幹を一定長さごとに細分した部分について重力を回転(倒木)方向の力と幹に沿って根元に向かう力(圧縮)に分解して幹断面における圧縮と引張の応力を計算した.この仮定では根元で最大となるため根元の断面の中での最大の応力値と材の強度を比較して,負荷率=材にかかる最大の力/破壊される限界の力を計算し,これを倒木リスクとした.植物体の重さはパイプモデルにより長さ方向に均一と仮定した.なお樹幹には樹木の自重に加えて樹冠に均一に30cmの積雪(横浜の最大)による力がかかるとの仮定も行ったが,雪の負荷は樹冠のひろがりの重心で幹に作用すると仮定した.調査した樹林の外れにはアラカシが分布し,胸高直径と樹幹長ともに小さかったが,外に張り出して傾斜角度が大きな個体もあった.樹林の内部には樹幹長が長く傾斜角が小さなクスノキが分布していた.倒木リスク(負荷率)は自重のみの計算では十分小さかったが,30cmの積雪では倒木する個体が現れた。ただし個体により差があり樹林内部の細長い個体の倒木リスクが高く,樹木の傾きはそれほど重要でなかった.台風による倒木の調査では,幹折れは環境保全林の内部の直立する細長い個体でみられ,上記の力学計算と一致していた.台風による強風では,ほとんどの樹木が風になびき風を遮らないため単木での計算と一致していたと考えられる