| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-059 (Poster presentation)
ある地域の種プールは、気候帯などの地理的スケールの現象に規定される。実際に生息する種とその密度は、種プールの中からさらに景観構造の影響を受けて決まるため、大きな地域差が生じる。この差異は、捕食者の生態に地域差をもたらす可能性がある。
本研究では、東北を北限とし国内に広く分布する里山景観の猛禽、サシバに注目する。本種の景観選択は分布中心の関東で研究が進み、水田のカエルと森林の大型昆虫を捕食するため、水田と森林が隣接する景観が重要とされてきた。しかし近年、本種にとって重要な景観要素には地域差があり、南の地域であるほど草地などの重要性が高まることが示されている(Fujita et al. 2016)。私たちは、景観選択に地域差が生じる要因として、気候条件による種プールの差異と、農事暦による景観構造の差異に着目している。分布域南部の九州北部では気候が温暖であるためバッタ目の密度が高く、発生時期も早い。また、二毛作が盛んであるため田植え時期は関東より約1か月遅い6月中旬である。そのため、サシバの育雛期に水田はカエルの生息地として機能していないと考えられる。
私たちは2018年6月に九州北部の里山を対象に、サシバと餌生物の分布および景観の調査を行った。調査の結果、サシバの生息確率は草地-森林境界長と正の相関があった。また、2009~12年に巣(n=7)に設置したビデオ記録を調べた結果、バッタ目を多く給餌していた。餌生物の分布調査の結果、水田のカエルは低密度であるが、草地のニシキリギリスの密度は高く、特に草丈が高い草地や草-森境界長が長い景観で高かった。また、サシバの生息確率はキリギリスの密度と正の相関があった。これらの結果から、九州北部のサシバはキリギリスを多く食べるため、草地と森林が隣接する景観が生息に重要であると示された。本研究は、サシバに重要な景観要素の地域差が、地理的スケールと景観スケールの影響により生じている可能性を示した。