| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-064 (Poster presentation)
都市緑地は環境汚染の緩和や生物多様性保全など、都市環境に様々な利益をもたらしていることに加え、人々の心理状態・健康状態にも影響を与えることが知られている。しかし、人々が日常的に無意識下で目にしている緑が心理に与える影響についての定量的な調査は、現時点では十分に行われていない。
このような調査を行うためには、人々が日常生活で目にする緑についての定量化が必要であるが、視野を占める緑地の割合を定量化することは困難であった。フィールド調査でこのような定量化を行うには大きなコストと時間を伴う。また航空写真など上空からのデータは、地上で生活する人々の視界を反映するとは限らない。そこで、近年注目されている深層学習を用いることで、路上で撮影した映像データから自動的に緑地を抽出し、人の目に映る地域景観を定量化することとした。
深層学習はコンピュータによる自動化をもたらすので、短時間で膨大な量の画像データを処理できる。また、色以外にも植生の形態など様々な特徴を抽出して分類を行うため、これまでの研究では不可能であった緑色の人工物と緑地との分類や、緑地の種類に応じた多クラスの分類も可能になる。
本研究では、福井県の4地域を対象に、路上をビデオカメラで撮影した画像から深層学習を用いて緑地の抽出・分類を行った。フィールド調査で撮影した動画データからテスト画像を切り出し、深層学習を用いて3タイプの緑地(樹木・草地・山地)および緑地以外の4クラスの自動分類を行った。目視で正答率を確認したところ、すべてのテスト画像においてエラー率は10%未満であり、人々の視野に存在する緑地のタイプと割合の評価を効果的に行うことができた。
今後、住民から取得した幸福感、地域との関わり方などのアンケート結果から、地域景観を構成する緑と住民の心理特性の関連性を明らかにする。これにより、人と自然が共生する社会の実現に貢献することを目指す。