| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-070 (Poster presentation)
近縁種同士が同所的に生息するためには、生殖的な隔離だけでなく異種間で起こる求愛そのものを回避することが重要であることが近年指摘されている。そのため、いくつかの生物では同所的に分布する近縁種から受ける求愛自体を避けるメカニズムを持つことが知られている。ナゴヤダルマガエル(以下ナゴヤ)は近縁種であるトノサマガエル(以下トノサマ)と同所的に分布しており、メスが鳴き声を用いてトノサマのオスから受ける求愛を回避していることが明らかとなっている。ナゴヤには亜種としてトウキョウダルマガエル(以下トウキョウ)が存在するが、こちらはトノサマとは側所的に分布している。本研究ではトウキョウについて、本来同所的には分布していないトノサマのオスに対するメスの鳴き声による異種間求愛拒否行動が存在するかどうかを確かめることで、カエル類では珍しいメスの鳴き声の進化過程を考察した。その結果、ナゴヤに比べて頻度は少ないものの、トウキョウのメスもトノサマのオスに対して鳴き声を発することが明らかとなった。一方で、メスが鳴き声を発する際のオスとの距離はナゴヤと比較してトウキョウでは短いことが明らかとなった。トウキョウが鳴き声を発する平均距離はトノサマのオスがメスにとびついて抱接を試みる平均距離よりも短いため、トウキョウのメスの鳴き声はトノサマのオスの求愛を防ぐには効果的ではないことが示唆された。日本列島にはもともとナゴヤとトウキョウのみが生息しており、約1万年前にトノサマが大陸から侵入してきたとされている。従って、トウキョウとナゴヤにおいて前適応的に持っていたメスが鳴く形質が、ナゴヤにおいてはより遠距離で、より高頻度で鳴くように進化したことで、トノサマとの同所的な分布が可能になった一方、トウキョウでは未発達のため側所的な分布になったと考えられる。