| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-074 (Poster presentation)
捕食者と被食者の間に見られる「食う、食われる」の関係は、それぞれにさまざまな防衛手段とその突破口を進化させてきた。鱗翅目シジミチョウ科の多くの種では、幼虫期に蜜をアリに与える代わりに天敵を排除させるアリ随伴性が見られる。一方、シジミチョウの主要な天敵である寄生蜂のうち、特定のアリ種のみを随伴するシジミチョウに寄生する種はアリの臭いに擬態することでこの防衛を克服している。では、様々なアリ種を随伴するシジミチョウに対しては、寄生蜂はどのようにアリ随伴による防衛を攻略しているのだろうか。本研究では、10種以上のアリを随伴することが知られているムラサキシジミNarathura japonica(以下、シジミ)幼虫とその幼虫寄生蜂Cotesia inducta(以下、寄生蜂)に着目し、複数のアリ種を随伴する寄主に対する寄生蜂の寄生戦略を検証した。まず、野外でシジミ幼虫のアリ随伴率を調査した結果、幼虫齢が進むにつれてアリ随伴率は高くなる傾向が見られた。次に、室内実験で寄生蜂を各齢のシジミ幼虫に産卵させたところ、寄生成功率は若齢のシジミ幼虫に産卵した場合ほど高くなった。さらに、室内で寄主選択実験を行った結果、アリを随伴していない場合でも、寄生蜂はより若齢のシジミ幼虫から有意に先に産卵した。野外調査と室内実験から寄生蜂が野外で実際に産卵しているシジミ幼虫の齢期を推定したところ、主に2齢幼虫に産卵していることが判明した。最後に、調査地において高頻度で随伴が見られたトビイロケアリ(以下、アリ)を用いてアリ随伴の防衛効果を検証したところ、寄生蜂はアリに随伴されたシジミ幼虫には全く産卵することができなかった。以上の結果から、寄生蜂は複数のアリ種に随伴されているムラサキシジミの幼虫に対し、アリ随伴自体は攻略できていないが、アリを随伴率が低い若齢幼虫に選択的に産卵することで、アリ随伴を回避していることが示唆された。