| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-076 (Poster presentation)
イルカは呼吸時に、水面に浮上後、呼吸して再び潜水するという一連の動作が必要である。水面に浮上する行為は海中の天敵に狙われるリスクを伴う。例えばシャチOrcinus orcaは、餌であるイルカが呼吸を行う際に発生する音を聞いて、餌を定位している可能性が指摘されている。一方、被食者側であるイロワケイルカCephalorhynchus commersoniiやネズミイルカPhocoena phocoena等はシャチの可聴域を超える音域を鳴音に利用しており、音響的な対捕食者戦略を行っていると示唆されている。さらにイルカはネズミイルカ科のスローロールのように遊泳姿勢を制御することで、呼吸時に水上に出る背鰭によって発生する波の音を低減し、シャチかから発見されにくくしている可能性が考えられるが、実際にイルカがそのような捕食者対策を行っているか不明である。
そこで本研究ではイルカの浮上時と潜水時の屈曲および伸展運動を明らかにする為に、水中の観察と撮影が比較的容易な飼育下のイロワケイルカ、カマイルカLagenorhynchus obliquidens、ハンドウイルカTursiops truncatusを対象に、高速度撮影(240fps)と画像に基づく運動解析を行った。計95時間の観察中、計24例の呼吸時の運動を撮影し、屈曲角(吻先、前縁基部、尾鰭の付け根の成す角)を解析した。浮上中はイロワケイルカの例のみ背腹軸方向に身体を伸展していたが、水面に到達後の潜水開始時には、どの例でも身体を屈曲させながら背鰭を水上に出し、全身が水中に戻る時には、浮上開始時と同じ屈曲角になっていた。このイロワケイルカの特徴的な伸展運動は、先行研究で報告があるネズミイルカと似ていた。どちらの種も鳴音で対捕食者戦略を取っている可能性がある ため、呼吸時の伸展運動も 対捕食者戦略としての音響的対策である可能性が示唆された。