| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-082 (Poster presentation)
本研究ではコウモリの採餌パッチでの複数個体間の相互作用に着目し,音響計測による定量的な評価によって,コウモリの社会行動の解明を目的とした.約20 m四方の池を採餌パッチとして利用するモモジロコウモリに対し,16chのマイクロホンアレイを用いて超音波音声を計測し,採餌パッチへの入出によるコウモリの採餌行動の変化を調べた.
計測中において,個々のコウモリは捕食しながら次々とパッチへの入出を繰り返していることがわかった.また,一度に餌場に現れるコウモリ数は1,2匹で多数のコウモリが一度にパッチに現れることはなかった.次に,コウモリがパッチを出てから次の個体が来るまでの時間に着目し,パッチで2個体が同時飛行した場合の行動を調べた.その結果,先にパッチにいた個体が出ていく場合(N = 65)の方が,新しく入ってきた個体が先に餌場を出る場合(N = 30)よりも約2倍多い結果となった.さらに,新しい個体がパッチ内に入ると,元からパッチにいた個体のほとんどは10秒以内という短い時間でパッチを出ていくことがわかった.これよりコウモリは,次に現れた個体に採餌パッチを譲る行動を主に執っていると考えられる.
他個体に採餌パッチを譲る行動は,一見すると利他的行動であり,自己の利益にはならない.しかし譲った個体が次のパッチで同様の行動を他個体から受けることを想定すると,互恵的利他行動の可能性が考えられる.そこでパッチを譲る方が譲らないよりも個体群としては効率が良いという仮説を立て,数値シミュレーションによって検証した.その結果,コウモリにとってあと少しでパッチを去るタイミングで,次のコウモリが来るという条件ならば,パッチを譲る方が個体群全体としての利得効率が良い可能性が示唆された.
以上の結果から,コウモリはパッチを譲らないよりも,譲る方が効率の良い場合もあることから互恵的利他行動を執ることで効率よく採餌する可能性が示唆された.