| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-084 (Poster presentation)
生物と近隣個体の関係が血縁度に応じて異なることは多くの分類群で知られており、近年では植物のような生物でも多数報告されている。ミズクラゲ Aurelia coerulea には、植物のように固着底生生活を送るポリプ期と、浮遊生活を送るメデューサ期があり、ポリプ期には共食いが時折観察される。ただし、共食いする相手は血縁関係にないポリプであり、自分のクローンを共食いすることはないと報告されている。つまり、ポリプが自分のクローンと隣接している場合と、血縁関係のないポリプと隣接している場合では、共食いリスクが大きく異なる。このことから、本種では近隣個体の血縁度に応じて行動および生活史形質が変化すると考えられる。本研究では近隣個体の血縁度を操作した飼育実験によって、この仮説を検証した。
実験では、6系統 (以下A ~ F系統) のミズクラゲからクローン増殖したポリプを用いて、(1) 同系統のポリプを同居させた場合 (同系統条件)、(2) 別系統のポリプを同居させた場合 (別系統条件) で2 ~ 3週間にわたりシャーレで飼育した。実験期間を通してアルテミア幼生を毎日給餌し、毎日個体の分裂したクローン数、共食いの有無、個体の大きさの変化、定着位置の変化を記録した。さらに、2系統 (A, B系統) では、水深を浅くした飼育条件 (共食いが抑制される環境条件) で、上記と同様の実験をおこなった。
実験の結果、共食いは水深が深い別系統条件でのみ観察された。とくにB系統の個体が他の系統の個体を共食いした。一方、水深を浅くした条件では、B系統の個体は同系統条件に比べて別系統条件におけるクローン分裂頻度が大きく低下した。これらの結果は、少なくとも本種が血縁個体を識別して、近隣個体が自分のクローンか否かに応じて行動・生活史形質を変化させていることを示唆する。ただ、実験は現在も進行中であるため、発表当日に全体的な結果を紹介する。