| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-086 (Poster presentation)
哺乳動物の種内多個体間の同調的な移動は、複数の種で観察されている。同調的な移動をする多くの種は、餌資源を求めて周期的に移動する。本研究対象のボルネオヒゲイノシシ Sus barbatus barbatus(以下、ヒゲイノシシ)は、オスは単独、メスは母子もしくは、複数の母子が群れになり行動するが、稀に、同調的に長距離を移動することがある。しかし、森林の中を移動するため、観察が難しく、移動パターンの詳細についての記録は非常に少ない。また、移動の要因も明らかになっていない。ヒゲイノシシは、森林内では、高頻度で見られる種であるが、森林の減少に伴い生息地は年々減少し、絶滅危惧種とされている。ヒゲイノシシの生態や生息地利用様式を明らかにすることは、保全の面からも重要である。本調査地は、マレーシア、ボルネオ島サバ州にある面積1012km2、標高300mから2100mまで連続する熱帯山地二次林である。1980年代ごろに強い伐採を受け、2000年頃から現在は森林の利用はほとんど行われていない。本調査では、カメラトラップ計63台を標高に沿って設置した。設置期間は2015年から2017年の約2年間である。その結果、ヒゲイノシシは、約4000回観察された。300m-800m、800m-1500m、1500m-2100mの3段階の標高帯に分けて、撮影頻度の時間的変化をみたところ、標高帯ごとに高頻度で出現する時期とほとんど出現しない時期があることがわかった。このヒゲイノシシの撮影頻度の増減は、標高帯間で相補的になっていた。このことから、本調査地のヒゲイノシシは、標高に沿って同調的に移動した可能性が高いことが示唆された。また、移動が起こるタイミングや移動の方向には、年単位の明確な周期性は見られなかった。これらのことから、ヒゲイノシシの移動には、果実の豊凶や降水量など、年次変動の大きい環境要因が影響している可能性が示唆された。