| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-093 (Poster presentation)
動物の行動に見られる個体差は個性と呼ばれ、個体内で一貫した行動の傾向と定義されている。個性は個体の分散にも影響することが指摘されている。
イワナでは、砂防ダムによる河川分断後も、その上流に個体群が存続する。この局所個体群における稚魚は、分散傾向が低いことが知られている。この稚魚は、分散しにくい一連の形質を備えているかもしれない。分散しにくい一連の形質は、形態形質でも期待できるが、複数の行動形質でも期待できる。すなわち、この局所個体群は、非積極的な個性の個体で構成されている可能性がある。
本研究では上記の仮説を検証するため、砂防ダム上流のイワナの稚魚 (ダム群) と砂防ダムが存在しない2支流の稚魚 (開放A群・開放B群) で3種類の行動を比較した。具体的には、新奇物体と鏡に対して遊泳した時間、捕食者刺激を与えた後に餌に接触するまでの時間を測定した。各個体の行動の傾向が一貫しているか確かめるため、約2ヶ月後に実験を再度繰り返した。
群を区別しない解析では、これらの行動間に有意な正の相関がみられた。しかし、群ごとで解析すると、基本的に有意な相関は得られなかった。ダム群の個体が新奇物体及び鏡に対して遊泳した時間は、開放A, B群に比べて有意に短かった。どちらの行動でも、1回目と2回目の測定値の間に正の相関がみられた。ダム群は開放A, B群に比べて、餌に接触するまでの時間が長かったが、有意差はなかった。
以上の結果は冒頭の仮説を支持しており、イワナの稚魚には生息地間で個性の違いがあり、さらにダム群は開放群に比べて一貫して非積極的な個性の個体で構成されていることが示唆される。一方、同一生息地内では基本的に行動間の相関が認められなかったことから、本種では多様な個性が共存しているわけではないようである。稚魚期における生存・成長・分散に好適な個性が生息場所間で明確に異なることが、その原因かもしれない。