| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-094 (Poster presentation)
近年の急速な都市環境の拡大は、野生生物に対して自然由来の資源の損失をもたらす。一方で、人由来の資源の存在は一部の野生生物の都市での生息を可能にしている。都市には餌付けや廃棄物などの通年豊富に利用できる人由来の餌が存在し、自然下の餌との質・量的な違いが利用する生物の健康状態や繁殖投資に変化をもたらす可能性がある。しかし人由来の餌利用度の定量化とその影響評価を行った研究は乏しい。エゾリスSciurus vulgarisも、人由来の餌付け餌の利用が通年観察されている。自然下の餌に餌付け餌が付加的に増加することで、餌資源の安定化による食性変化及び、健康状態が向上している可能性がある。本研究では、都市公園(都市)と郊外の自然林(郊外)に生息するエゾリスの観察と安定同位体比分析による食性の解明及び、体重計測を行うことで、餌付けがもたらす本種への影響を調べた。観察の結果、郊外では利用する餌に明確な季節性が見られ、春季にはハルニレや昆虫などを、秋季にはこの時期に結実するマツを主に利用していた。都市では、餌台や人の手からクルミやマツなどの他、ヒマワリやピーナッツなどを餌付けされている様子が観察され、利用する餌の種類に季節性は見られず、常にクルミとマツが主に利用されていた。同位体比による食性解析においても、都市ではクルミとマツの利用度が通年にわたり郊外よりも高く、都市と郊外で食性が大きく異なることが示された。また雌の春と秋、雄の秋において都市の個体は郊外よりも体重が重かった。本研究より都市に生息する個体は通年餌付けから高質なクルミとマツを多量に利用できることで、体重の増加していることが示唆された。体重の増加は生存率と産子数を向上させるため、餌付けの存在は都市での野生生物の生息を可能にした一因であるかもしれない。