| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-095 (Poster presentation)
共食いは同種個体を食う現象を指し、原生動物から哺乳類まで幅広い分類群で見られる。共食いの中でも特に配偶相手を食う現象を性的共食いと呼ぶ。既知の性的共食いは、いずれも片方の性が相手を一方的に食う例であり、雌雄が互いに食い合う例はなかった。しかし唯一の例外が、リュウキュウクチキゴキブリでオスとメスが配偶時に互いの翅を食い合う現象である。本種の新成虫は長い翅を持ち、繁殖時期には飛翔、分散するが、雌雄が出会うと配偶時に相手の翅を付け根近くまで互いに食い合う。この翅の食い合いは互いに食い合う唯一の例であり、本種の生態から雌雄の利害対立が存在しない可能性が高い。この状況の実証例はなく、これを示すことでまったく新しい繁殖戦略の存在を明らかにできると考えられる。しかしながら、翅の食い合いはその存在についてすら出版された文献がなく、翅を食い合う意義の検証は行われていない。本研究では、ペア内の雌雄どちらかの翅を切断して翅の食い合いを観察し、相手の翅が既に短い及び自身の翅が既に短い場合の行動を定量的に解析することにより、翅の食い合いの意義について検討することを目的とした。その結果、翅の食い合いも交尾もほぼ全ペアが成功し、交尾が翅の食い合いより先に行われた。また切断処理された翅は、通常個体同士が翅を食い合った後の翅と同程度の面積であったにも関わらず、ほとんどのペアで齧られていた。当初、短い翅は交尾済みの指標になっており、切断処理個体は交尾相手に選ばれない可能性を考えていた。しかし交尾は行われた事により、この可能性は低い。他に、翅を食うことで相手の飛翔能力を奪って相手の交尾を担保している仮説や、翅を食って相手の質を測り配偶者選択している仮説も考えたが、交尾が翅の食い合いより先行だったため成立し得ないと思われた。そこで、これらの他にはどのような仮説成立しうるか、今回の結果を踏まえて検討した。