| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-098 (Poster presentation)
食物の選択性を調べることは、その種の環境適応の理解に必要である。ニホンザル(Macaca fuscata)はジェネラリストで多くの植物の様々な部位を利用する。ニホンザルは果実を好む傾向があるが、彼らの主な生息地である温帯域で、果実は年を通して非常に限られた期間でしか利用できない。一方で葉については果実よりも長い期間、もしくは通年で存在するが、一種を専食せず、さまざまな種を利用する。その理由は、タンニンなどの植物側の質的防御により、一種のみを多量に採食することで消化阻害がおきることを避けるためであると説明される。しかし、食物の選択性は複雑でわかっていないことが多い。もし、ニホンザルが果実以外の特定の植物の葉を専食する場合があれば、その調査地における採食可能な植物と専食する食物を比較することで、ニホンザルの食物の選択性がわかるかもしれない。
屋久島は山頂が標高1,936mの大陸島で、標高1,700m以上の標高帯はヤダケ属の1種であるヤクシマヤダケ(Pseudosasa owatarii:以下ササと略)が優占するササ原である。2015年7月から2016年の11月、2017年の4月から11月の期間でセンサスと行動観察をおこない、ニホンザルが4月から10月でササ原を利用していることが分かった。また、ササ原でニホンザルはササの芽の髄とタケノコを採食していた。ほかの品目の採食はほぼ確認されなかった。
次に、ニホンザルが採食するササの部位とそれ以外の部位、屋久島の標高1400mから1700mのスギ林帯に存在する樹木の成熟葉、新葉、果実に関して灰分、脂肪、タンパク質、NDF、消化可能タンパク質の項目に分けて栄養分析を行った。
ササの芽の髄とタケノコはほかの品目に比べ、タンパク質含有量も消化可能なタンパク質量が高かった。ササの芽の髄とタケノコが、高栄養で、かつ、消化阻害が少ない食べ物であったため専食していることが示唆された。