| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-100 (Poster presentation)
多種共存機構の解明は、群集生態学における主要な研究課題の1つである。ヤマネ とヒメネズミはいずれも樹上性の小型哺乳類であり、東北地方の落葉広葉樹林から九州南部の照葉樹林まで広く同所的に生息している。両者の共存機構に関して、山形県での巣箱利用状況を調査した事例では、ヤマネは樹木の高所を主に利用し、ヒメネズミは低所を利用することが明らかになっている。一方、九州の照葉樹林に生息するヤマネの生態や、他の樹上性小型哺乳類との種間関係については未解明な点が多い。本研究では、2017年から2018年にかけて、ヤマネとヒメネズミ類(以下、ネズミ)が同所的に生息する多良山系の2地点(いずれも標高約500m)において、両者の活動場所および営巣場所を比較する目的で、巣箱と自動撮影カメラを用いた調査を実施した。
川沿いから山沿いにかけて、任意に選択した樹木の幹に巣箱と自動撮影カメラを設置した。巣箱は木製(2017年度のみ)と塩ビ製(サイズ3種類)を使用し、地面から高さ1.5~2mと3.5~4mの位置に設置した。月に一度の定期調査により、巣箱内の巣材と量を確認するとともに、自動撮影カメラのデータを回収し、撮影物を確認した。
2017年度の調査では、ヤマネは塩ビ製、ネズミは木製の巣箱を主として利用した。木製の巣箱は塩ビ製に比べ容積が大きかったため、ネズミはヤマネより大きい樹洞を選好、あるいは塩ビ製を避ける可能性がある。高さ別の巣箱利用状況を比較した所、ネズミは高所を主として利用しているのに対し、ヤマネはどちらも利用していた。また、ヤマネは春先に川沿いの低い巣箱を高頻度で利用し、秋には川沿いの高い巣箱や山沿いの巣箱を高頻度で利用した。以上より、九州北西部の照葉樹林においては、ヤマネとネズミは樹洞のサイズ選好性が異なること、および、本州の落葉広葉樹林とは両者の利用場所が異なっていることなどが示唆された。