| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-101 (Poster presentation)
動物が植物片や砂粒などを用いて自身の体や巣を装飾する行動(装飾行動)は,特定の分類群に偏在してみられる。装飾の機能については,物理環境や捕食者に対する防御の研究例は多いものの,採餌における有益性に関する知見は乏しい。また,装飾行動の進化を考えるうえで,装飾が生じるコストの検討は重要である。
渓流昆虫のクワヤマカクスイトビケラ幼虫は,筒巣を石礫や植物体に固着させ,その前端より肢を出して食物を捕捉する流下物食者である。本種には,マツ科樹木の針葉リターを主とする植物片を筒巣に装着する個体からなる集団が存在するが,このような飾りの量には集団内変異が認められる。本研究は,本種幼虫が筒巣に施す飾りについて,①魚類からの捕食回避機能,②高質な動物餌の採餌効率向上機能,③移動時のコスト,④集団内変異を生じる機構を明らかにすることを目的とした。
室内実験の結果,魚類捕食者であるハナカジカには,多量の飾りを装着した個体よりも飾りのない個体を選択的に攻撃することや,飾りのない個体の捕食成功率が高いことは認められなかった。水路において動物餌を放流した実験の結果,飾りの量が多い個体ほど高い餌捕捉率を示した。したがって,筒巣の飾りは動物餌の採餌効率向上機能を有することが明らかとなった。
飾りの量が多い個体ほど,流下移動後に適切な位置に着地できないコストが高まることを示す証拠が得られた。しかし,本種幼虫が流下移動を行う際には飾りを取り外すことが確認され,このコストは回避されていた。個体が装着する飾りの量の集団内変異は,体サイズのそれの80~100倍に及んだが,個体の齢や体サイズ,生息環境では説明できず,変異に大きく寄与するのは個体が固着後に経過した時間であると推測された。本種の装飾行動の進化には,移動性の低い待ち伏せ型の採餌様式と,可塑的な着脱を可能にする飾りの材料の入手しやすさが重要であったと考えられる。