| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-102 (Poster presentation)
甲殻類ではオスが交尾前ガードを強要する強制行動とメスの拒絶行動が複数種で報告されている。ホンヤドカリ属のオスは繁殖期にメスの入った貝殻を持ち歩く交尾前ガード行動をおこなうが、この行動における性的対立に着目した研究はほとんどない。そこで、本研究ではヨモギホンヤドカリ Pagurus nigrofascia のガード前後の行動を性的対立の観点から調べることを目的とする。
本種の繁殖期に、採集時にメスをガードしていなかった1個体のオスと、以下の3群のいずれかに属する1個体のメスを水槽に入れて雌雄の行動を観察した; (A) 抱卵メス、(B) 採集時にガードされていなかった未抱卵メス、(C) 未抱卵だが採集時にガードされていたメス。その結果、ガード開始前後にメスが歩脚や鋏脚をジタバタ動かす行動 (ジタバタ行動) が観察された。オスがメスに接触してガードを開始するか、あるいはメスから離れるまでにジタバタ行動を示したメスの割合はA群とC群で約40%だったが、B群では10%だった。A、B群ではガードが開始された例はごくわずかであり、C群ではガード後にメスの66%が本行動を示した。一方、オスがガードを試みるとき、もしくはガード後に、メスの貝殻に自身の貝殻をガツンと打ちつける行動 (ガツン行動) がしばしば観察された。53%のオスがC群のメスにガツン行動を示したが、他2群ではガツン行動はほとんど観察されなかった。また、ガツン行動はメスがジタバタ行動を示しているときに多く見られ、メスはガツン行動後に貝殻に引っ込む割合が高かった。
本種ではガードの開始と継続をめぐる性的対立があることが示唆される。ガツン行動はガード開始時のメスの抵抗を抑えるための行動かもしれない。ただし、ガツン行動はガード開始後にも見られたため、その機能はガード開始の強制以外の機能も持ち合わせると考えられる。