| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-108 (Poster presentation)
水中に含まれるDNA情報を解析する環境DNA(eDNA)分析は、非侵襲的に水生生物の生息状況を評価可能なモニタリング手法として注目されている。繁殖期にはeDNA濃度が定常状態と比較して増加することが知られており、eDNA濃度が繁殖行動とともに増加すれば繁殖場所や繁殖時間の推定が可能になるかもしれない。本研究では、河川に繁殖遡上する絶滅危惧種ハス(Opsariichthys uncirostris)を対象に、eDNA濃度の日周変化を追跡した。
2018年の6月26日と7月18日に琵琶湖に流入する河川を対象に調査を行なった。6月の調査では、知内川と塩津大川の下流域にそれぞれ調査地点を設け、4−19時の間で2時間毎に採水を行なった。採水前に15分間、目視で繁殖行動の回数を記録した。7月の調査では、知内川の下流域に調査地点を2地点(上流・下流)設け、0−24時の間で2時間毎に採水を行なった。両地点にカメラを3箇所設置し、同日の6−20時の間の採水前に15分間ビデオ撮影を行い、動画から繁殖行動の回数を記録した。両日、採水時には環境要因として水温、pH、電気伝導度を記録した。
全地点でeDNA 濃度が朝から昼にかけて増加し昼から夜にかけて減少した。そこで、eDNA濃度と繁殖行動の回数や環境要因との相関関係を調べた結果、全地点でeDNA濃度と水温の間に非常に強い正の相関が確認された。これは、水温の上昇とともにハスのDNA放出量が増加したことを示唆する。DNA放出量を増加させる要因の候補の一つである繁殖行動の回数とeDNA濃度との間の正の相関は、7月の調査の下流地点でしか確認されなかった。これは、繁殖行動が目視やカメラ撮影の範囲外で盛んに行われていたのが原因かもしれない。一方で、繁殖行動のほかにもDNA放出量を増加させる要因があるとも考えられる。今後、まずeDNA濃度と繁殖行動との関係性を明確にするため、核DNAを用いた解析を加え、ミトコンドリアDNAと核DNAの日周的な比率の変化を追跡する必要があると考える。