| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-109 (Poster presentation)
温度は普遍的な環境条件である。特に外温動物では、環境の温度は代謝など様々な生理学的プロセスに影響を及ぼし、行動や生活史にも影響を与える。チョウの一種では、日当たりの良い場所に縄張りを持ち体温が高いオスが、体温の低いオスよりもオス間闘争において優位となることを示唆する研究例がある。しかし、温度がオス間闘争に与える影響を検証した例は少ない。そこで本研究では、温度の時空間変動が大きい潮間帯に生息するホンヤドカリを対象として、各個体の置かれている環境の温度条件を実験的に操作することによって、温度がオス間闘争に関わる複数の行動に及ぼす影響を検証した。
まず、野外で採集した交尾前ガード中のオスとメスを用いて、2個体のオス(単独オス、ガードオス)を異なる温度条件(15 and 22℃)に1時間以上馴致させた後で、オス間闘争実験を行った。その結果、実験開始から動き始めるまでの時間は高温条件の方が早かった。しかし、初めに相手に接触するまでの時間、闘争行動を示していた時間、相手からメスを奪えたか、奪えた場合は奪うまでの時間といった各行動データにおける温度条件間の有意差は認められなかった。また、闘争する2個体のオスを同じ温度条件(15 or 22℃)に馴致させた後で行ったオス間闘争実験でも、実験開始から動き始めるまでの時間が高温条件の方が早かったものの、その他の各行動データにおける温度条件間の有意差は認められなかった。
本研究の結果は、体温が高いオスがオス間闘争で優位であるという当初の予想を支持しなかった。しかし本種でも、卵の発生速度等の生活史形質における温度の影響は明確である。また本研究でも、動き始めるまでの時間は高温条件の方が早かった。本種には、オス間闘争のように適応度に直結する短期間の行動に対する温度の影響を緩和できる仕組みがあるのかもしれない。