| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-111  (Poster presentation)

ニホンジカの出産・子育て行動 in 北アルプスーGPSデータが明かすー
Parturition and nursing behaviors of Sika Deer in the Northen Alps : using GPS relocation data

*岡杏奈(信州大学), 平川浩史(森林総合研究所), 瀧井暁子(信州大学), 泉山茂之(信州大学)
*Anna OKA(Shinshu Univ.), Hirofumi Hirakawa(FRMO), Akiko Takii(Shinshu Univ.), Shigeyuki Izumiyama(Shinshu Univ.)

ニホンジカの出産期の生態に関しては不明な点が多い.本研究では,長野県大町市の北アルプス山麓においてGPSテレメトリーにより個体追跡し,出産が確認された成獣メス2頭(MH,FJ)の測位データを分析して出産期前後の行動を明らかにした.分析には,「動物移動軌跡の時間軸分析法」(平川 未発表)を用いた.
MHは2013年,FJは2018年にそれぞれ捕獲しGPS首輪を装着した.MHは2015年まで個体追跡を行ったが,2014年11月の夜間にMHが当歳仔とともに行動していたことを確認したため,2014年に出産したと判断した.FJは,現在も個体追跡中だが,行動圏に設置した自動撮影カメラによって,6月22日にFJに追従する当歳仔を確認したため,2018年に出産したと判断した.
MHは季節移動個体であり,2014年4月19日に夏季の行動圏へ回帰し,6月3日まで標高約900~1600mを利用していた.その後,6月4日に標高約950mの河畔林に移動し,6月7日まで約0.8haの狭い範囲に滞在した.6月8日には,さらに約300m標高の高い尾根付近まで1日かけて移動し,6月14日まで約5.2haの範囲に滞在した.その後は徐々に行動半径が広がる傾向が見られた.
一方,FHは捕獲後5月中旬まで標高約1000~1500mの比較的広い範囲を利用したが,5月22~25日にそれまで利用していた場所から移動する一時的な遠出を行った. 5月28日にはそれまで利用していた場所よりも標高が高く,急傾斜な場所(標高約1600~1700m)に移動し,6月1日まで約1.3haの狭い範囲に滞在していた.その後は,5月中旬まで利用していた標高約1000mの河畔林へ移動し,MH同様,約1ヶ月かけて徐々に行動半径が広がる傾向が見られた.
以上から,MHは6月4~7日,FJは5月28日~6月1日の期間に出産したと推測された.2頭はいずれも出産期に,通常の行動圏から一時的に移動した後,狭い範囲に滞在する行動を示したが,出産に利用する場所の標高や斜面傾斜は個体により異なることが示唆された.


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