| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-116  (Poster presentation)

異なる標高で優占するモミ属2種の稚樹の炭素獲得と成長に対する標高と光環境の影響
Effects of elevation and light conditions on carbon gain and growth of saplings of two Abies species with different elevational dominants

*鈴木里奈, 高橋耕一(信州大学)
*Rina SUZUKI, Koichi Takahashi(Shinshu Univ.)

亜高山帯性の常緑針葉樹は幅広い標高に分布しているため、高い標高の暗い環境のようなストレス環境でも生存、成長する必要がある。しかし、常緑針葉樹の生存、成長に不可欠な光合成やそれに関わる個葉形質へ及ぼす内的、外的要因の影響を包括的に調査した研究は少ない。日本の中部亜高山帯ではモミ属であるシラビソ(Abies veitchii)とオオシラビソ(Abies mariessi)が優占している。同じモミ属であっても、オオシラビソの方がシラビソよりも耐陰性が高く、より高い標高で優占している。本研究では、シラビソとオオシラビソの光合成速度に対する標高、光環境、葉齢による個葉形質の影響を、両種の分布下限(1600 m)と上限(2300 m)で調査した。光合成速度に関わる個葉形質として、窒素濃度、クロロフィル/窒素比(Chl/N比)、Leaf mass per area(LMA)、非構造化炭水化物(NSC)濃度、炭素安定同位体比(δ13C)を調べた。両種とも窒素濃度と最大光合成速度は正の相関があり、葉齢の増加による窒素濃度の減少が最大光合成速度を減少させていた。一方、シラビソでのみLMA、NSC濃度と最大光合成速度に負の相関があり、両種とも高標高でLMAが増加したのに対して、NSCが増加したのはシラビソだけであった。したがって、シラビソの方が光合成速度に対して高標高環境の影響を受けやすいことが示唆された。また、林内ではオオシラビソのみLMAが減少し、Chl/N比が増加したことから弱光環境における集光効率も種間で異なり、オオシラビソの方が高いことが示唆された。この研究では同じ常緑針葉樹のモミ属であっても、光合成速度に関わる個葉形質の外的要因による変化の種間差から、耐陰性はオオシラビソの方が高く、光合成速度に関して標高の影響を受けにくいことが示された。


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