| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-117 (Poster presentation)
機能形質は、生物個体が取る生存戦略を反映する手がかりとして用いられている。これまでの主な先行研究では、機能形質は種の代表値として扱われることが一般的であった。しかし近年、機能形質が環境条件に応じた可塑性を有し、同種でも環境条件の変化に応じて変異することが近年注目されつつある。樹木の葉の機能形質を用いた研究から、光合成生産と物理的な耐久性との間に成立するトレードオフが示唆されている。樹木の樹冠付近の陽当たりの良いところに位置する葉は陽葉、下部の被陰されたところに位置する葉は陰葉として知られており、両者の間での複数の形質の変化が既に報告されている。さらに、針葉樹においては、シュートにおける葉の配置が陽葉と陰葉で異なる。また、樹木サイズに依存した形質の変化についても報告されている。しかしながら、針葉樹の同程度の葉群高において、大きな個体の下枝付近の葉と、小さな個体の樹冠付近の葉の形質を比較・考察した研究は少ない。そこで本研究では、トドマツが優占する冷温帯林においてトドマツの葉の複数の機能形質を、葉群高を考慮した上で比較した。本研究の結果、樹冠付近の葉でも、小さな個体では窒素の多い比葉面積の大きい葉をつけていたが、葉群高の増加とともに葉の乾燥物質含有量や物理強度が強くなり、窒素含有量や比葉面積は減少した。したがって、葉群高に応じて樹冠付近の葉の資源投資戦略が光合成優先型から耐久型に移行することが示唆された。一方で下枝付近の葉では、窒素濃度は葉の高さに応じた変化を示さなかった。しかし、葉の耐久性が同程度の葉群高の陽葉よりも高い値を示した。樹冠付近の葉は樹高の伸長成長に伴う環境変化が大きい分、葉の投資戦略を光合成優先型から耐久型に移行させる必要があるのに対し、下枝付近の葉は樹高が高くなっても葉群高が低い水準で維持される分、葉の投資戦略を可塑的に変化させる必要性が小さい可能性が示唆された。