| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-118 (Poster presentation)
温帯樹木は気象変化やかく乱など様々な要因の影響を受けながら成長し、その履歴を年輪に記録している。そのため年輪は樹木が環境変化に対し過去どのように応答してきたのかを1年単位で記録している。しかし、樹木の空間的位置関係に基づく周辺個体の動態に対する成長応答の解析や、同位体を用いた生理応答の解析をした研究は少ない。そこで本研究では、過去30年間にわたり約5年間隔で毎木調査を行っている岡山市半田山の長期モニタリングサイトのデータを利用し、周辺個体の動態が年輪に与える影響を評価した。優占種のコナラ65個体を対象に、年輪データとして年輪幅実測値から加齢に伴う成長減衰効果を除去した年輪幅指数(RWI)を算出した。その内自分より大きい周辺個体の枯死を経験した6個体について、年輪セルロースの炭素と酸素の同位体比(δ13C、δ18O)を測定した。環境要因には、気象条件として月毎の降水量、気温、相対湿度を、また周辺個体の動態として、対象個体の胸高断面積に対する周辺個体の断面積合計の割合で表される競争指数CIを求め、ある調査年を基準としてその直前の調査年からのCI変化量(ΔpCI)とその基準年から次の調査年までの変化量(ΔCI)を用いた。なおCIの算出は対象木から半径5m、10m以内の個体を対象とした。重回帰分析の結果、RWIには10mでのΔCIと当年7月の気温が負に影響しており、競争圧の上昇や夏季の気温上昇に起因する乾燥による成長の抑制が示唆された。δ13Cは当年5月の気温と負に相関しており、春先の気温上昇は水ストレスを誘引せず光合成を活発化させたと考えられる。一方、δ18Oは当年4月の気温と正に、6月の相対湿度および7月の降水量と負に相関しており、先行研究で指摘されているように過去の水環境を反映していた。これら同位体比は気象条件とは相関がみられた一方、周辺個体の動態には顕著な反応を示さなかった。