| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-119  (Poster presentation)

多雪地ブナの群落内における個体間・個体内の開葉日の変化と葉群高・葉形質との関係
Inter and intra- crown variation in Fagus crenata leafing days associated with vertical position and traits of leaves, in snowy region

*西坂志帆, 酒井暁子(横浜国大・環境情報)
*Shiho Nishizaka, Akiko Sakai(Yokohama Nat. Univ.)

開葉時期は年間を通じた個体の生産性を高めるように調節される。これまで群落内の個体間の開葉日の差異については多くの研究例があるが、個体内の開葉時期の変化に着目した研究は少ない。そこで本研究では、多雪地のブナを用いて、個体間・個体内の高さに応じた開葉日の変化を調べた。また、ブナは前年の光環境で葉の構造が決まるが、より上層の葉群との開葉タイミングの関係性によって光環境は変化すると考えられるため、開葉日と葉形質の関係を検証した。

福島県只見町の原生的ブナ林(下福井)とブナ二次林(楢戸)にて、前者では高木・亜高木55本、後者では高木~低木99本を対象に、各木の樹冠を上・下部に分けて開葉日、根元周囲の消雪日を記録した。また8月に一部の個体の樹冠下部から葉を採取し、LMAと柵状組織の厚さを計測した。

下福井は、楢戸に比べ群落が疎で融雪が早く全体的に開葉も早かった。樹高は開葉日に影響せず、しかし個体内では下側の葉群が遅れて開葉した。一方、林冠がうっ閉し融雪の遅かった楢戸では、樹高が低くなるほど開葉が遅れ、その傾向は埋雪の影響を直接受けたと推測される5.5m以下の個体で顕著だった。個体内でも低い位置で開葉が遅れた。寡雪地での先行研究では、下層木が同種の高木より先に開葉する現象が報告されている。しかし本研究では埋雪の影響がない亜高木でも高木より先に開葉するとの傾向はなかった。

開葉日とLMA、柵状組織の厚さには、下福井では有意な関係はなかったが、楢戸では、葉群の位置が低いほど、さらに同じ高さでも開葉日が遅いほど、LMAは小さく柵状組織は薄い、すなわち陰葉的形質を示した。多雪地のブナ稚樹は葉の構造発達に制限があり、強光阻害を受けやすいとの先行研究も踏まえると、本研究で下層の開葉が上層より遅れた理由として、雪の直接的影響に加え、上層の葉群の開葉後に陰葉を展開した方が適応的だからと考えられる。


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