| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-121 (Poster presentation)
熱帯雨林は地球上で最も種多様性の高い生態系であり、多くの近縁な樹種が同所的に生育している。こうした同所的近縁種の進化過程を探ることは多様性の創出について考えるうえで重要である。フトモモ科フトモモ属(Syzygium)は、熱帯アジアで最も種数の多い属であり、調査地のボルネオ島ランビルヒルズ国立公園にも53種が生息している。しかしSyzygium属の系統関係は複雑であり未だ不明瞭な部分が多い。
近年、大量のDNA配列データが得られるようになったことで過去の交雑が推定できるようになり、植物の多様化に種間交雑が重要であった可能性が指摘されるようになった。そこで、本研究では次世代シーケンサーで得られる大量の配列データを使い、同所的に生息するSyzygium属の詳細な系統関係を推定し、過去に交雑が起こった可能性を検証した。
系統関係の推定のために、1)葉緑体DNA3領域(matK、rbcL、trnH-psbA)のサンガー法シーケンス、2)ゲノム全体のMIG-seq、3)ゲノム全体のRAD-seqの3つの方法で配列データを得た。各データより最尤法(RAxML)を用いて系統樹を作成し、比較した。その結果、系統樹の信頼度は葉緑体DNA、MIG-seq、RAD-seqの順に上がり、葉緑体DNAでは近縁種の多いSyzygium属の系統関係の推定に十分な信頼度が得られなかった。RAD-seqとMIG-seqでは近いトポロジーの系統樹が得られ、信頼度は少し下がるもののMIG-seqでも系統関係が推定できることが分かった。
RAD-seqで得られた配列データをもとに遺伝子座ごとに系統樹を推定し、Bayesian Concordance Analysis(BUCKy)を用いて最も多くの遺伝子が支持するクレードで構成される系統樹(primary concordance tree)を得た。その結果、primary concordance treeと合祖理論で推定した系統樹(population tree)のトポロジーの間に相違がみられた。この結果は、Syzygium属の種間で過去に交雑や遺伝子移入等のイベントが起きた可能性を示唆する。