| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-124 (Poster presentation)
オオバアサガラ(以下オオバ)は先駆樹種であり、山地の渓流沿いなどに生育する。本研究では、オオバの定着条件を明らかにするため、渓流沿いの微環境が発芽や実生・稚樹の分布に及ぼす影響を調べた。
調査は東京大学秩父演習林大血川地区で行った。大血川から尾根に向けて、流路方向と垂直に交わる直線を6本引き、直線上に調査区(2m×2m)を76個設置した。調査区では、オオバの実生・稚樹数、地形の指標として流路からの距離と高さ、光環境の指標として開空度を測定した。2017年11月、オオバ種子300粒とバーミキュライト2Lが入ったメッシュバッグを、39個の調査区の近傍に1つずつ設置する播種実験も行なった。2018年4月から10月にかけて、毎月の発芽数を記録した。10月の調査後、33バッグからそれぞれ200粒の未発芽種子を回収し、それらの生死を判定した。
流路からの距離が1m以内の調査区は、台風による増水によって浸水した。流路からの距離と開空度は負に相関した。調査区内では実生・稚樹が49個体出現し、開空度が10%ほどの場所で最も個体数は多かった。1年間に総計176個体が発芽した。最も多く発芽したバッグでの発芽数は13だった。発芽数に流路からの距離は有意な効果をおよぼしたが、その効果は限定的だった。未発芽種子6600粒のうち、生存していたのは317粒だった。開空度が低い場所のバッグで多く、最も多く生存したバッグでの生存数は29だった。
流路からの距離によって浸水の有無や光環境は変化した。オオバの発芽が顕著に増加する環境は認められなかった。発芽率は低く、未発芽種子の一部は休眠している可能性がある。発芽率の低さから、実生・稚樹が不在の調査区は、種子散布量が少なかった結果かもしれない。オオバの発芽に渓流沿いの微環境が及ぼす影響は限定的で、定着には多量の種子散布が重要だと考えられる。