| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-127 (Poster presentation)
落葉樹林では、稚樹は林冠木よりも先に展葉することでより多くの光を獲得することができる。しかし、多雪地域では消雪よりも早く林冠木が展葉するため、稚樹の光環境としては不適であり、消雪の遅延は生存や成長に対して悪影響を及ぼすと考えられる。そのため、多雪地域においては林冠木の展葉時期だけでなく消雪時期が下層の稚樹に対して影響を及ぼすと考えられるが、両者の関係に着目した研究はない。本研究では青森県中央部に位置する八甲田連峰に生育するブナの稚樹のフェノロジーについて調査を行った。八甲田連峰に生育するブナ林冠木については、集団間・集団内個体間で展葉時期に変異があることが先行研究から知られており、そのようなフェノロジーの差異が稚樹でも同様にみられるのか、また、林冠木フェノロジーの個体間差がもたらす光環境の変異が樹冠下に生育するブナ稚樹に影響するのかについて検討する必要がある。
調査は八甲田連峰内に設置した6調査地点において、ブナ林冠木の樹冠から地点当たり60個体を選定し、消雪時期や稚樹と林冠木の春季(開芽と展葉)・秋季(黄葉と落葉)フェノロジーについて観察を行った。
その結果、稚樹の展葉時期は消雪時期の影響を有意に受けており、消雪が遅い場所ほど展葉が遅れる一方、消雪してから展葉するまでの期間は消雪が遅い場所ほど短くなる傾向が見られた。着葉期間についても消雪時期が遅くなるほど有意に短くなる傾向があり、また、着葉期間の短縮は翌年の稚樹の生存率の低下をもたらすことが示唆された。さらに、林冠木と稚樹のフェノロジー(展葉・落葉)との間には正の相関関係が見られ、林冠木の展葉が早い場所では稚樹の展葉も早くなり、林冠木の落葉が遅い場所では稚樹の落葉も遅くなることが明らかとなった。