| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-130 (Poster presentation)
ササは日本の重要な林床植生であり、管理放棄された里山で分布を拡大している。しかし、分布を拡大している可能性がある密度勾配のある稈個体群の動態はほとんど研究されていない。そこで関東で普通なアズマネザサ(以下ササ)を材料に、密度勾配のある稈個体群で稈の分布と成長動態を記述し、環境要因の影響を検討した。
調査は下草刈りが行われていない八王子市の松木日向緑地で行った。密度勾配のある稈個体群に、2 m × 10 mの調査区を2つ設置し、1 m × 1 mのプロットに分割した。2016年から2018年に、調査区内の全ての稈の位置と生残を記録し、各プロットで地面の傾斜、冬と夏の開空度を求めた。また、調査区の周囲4 m以内に存在する常緑樹の樹冠が林床を被陰する面積(被陰面積)を推定した。ササの空間分布・動態と環境要因の相関を、プロットを単位として解析した。
稈の空間分布、総数、稈密度は大きく変化しなかった。2018年には、ササの総稈数は645本であり、プロットの平均値では、稈密度は16.1本/m2、死亡稈の密度は2.68本/m2、新規出現稈の密度は0.525本/m2だった。開空度は、冬に6.27%、夏に1.60%であり、斜面傾斜は17.20°、被陰面積は38,312.0 cm2だった。異なる年の稈密度は互いに有意に正に相関した。また、ある年に死亡・出現した稈の密度はそれ以前の年の稈密度とそれぞれ有意に正に相関した。稈密度は、冬開空度とは有意に正に、被陰面積とは有意に負に相関した。一方で、夏開空度と斜面傾斜との相関は有意でなかった。
以上より、本調査地のササは、冬季の光環境により空間分布が制限され、光環境が大きく変化しなければ、成長動態も劇的には変化しないと考えられる。タケ・ササの空間分布が短期間で拡大する報告は多いが、本研究は明確な拡大が認められない場合もあることを示した。今後は、光環境の変化が、稈個体群の成長動態にどのように影響するかを明らかにする必要がある。