| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-136 (Poster presentation)
生態系の安定性は優占種の機能的特性や多様性によっても影響を受けると報告されていることから、優占種の遺伝的な脆弱性は群集の安定性に大きく影響する可能性がある。本研究では脆弱な生態系の一つである湿原生態系に着目し、湿原群の保全優先度決定における基礎情報とするため、植物群集優占種の遺伝的多様性を種間・湿原間で比較した。
八甲田山系に離散的に存在する湿原群において、分類群、生活史特性を考慮して選抜した優占種8種(ウメバチソウ、ヌマガヤ、ワタスゲ、ツマトリソウ、ネバリノギラン、キンコウカ、ミツバオウレン、ミズバショウ)を20湿原から各種8個体(合計1,128個体)採取し、DNAを抽出した。これらのサンプルについてMIG-seq法によるゲノムワイドなSNP分析を行い、遺伝的多様性の指標であるヘテロ接合度、湿原間の遺伝的分化指数を算出した。また、一般化線形モデルを用いて環境要因が各湿原内のヘテロ接合度に与える影響を評価した。
種間比較の結果、遺伝的多様性は種子が風散布型である種において高い傾向が見られた。また、種によって湿原間距離と遺伝的分化の程度は異なるものの、8種すべてで距離による隔離が検出された。湿原間において遺伝的多様性を比較した結果、8種のうち6種では湿原間に有意差が見られた。ただし、種間で遺伝的多様性が低い湿原は異なっていた。環境要因が遺伝的多様性に与える影響を評価したところ、標高はヌマガヤとワタスゲで有意であり、高標高ほど遺伝的多様性が高い傾向が見られた。さらに、ワタスゲでは同種の被度が小さいほど、ツマトリソウでは湿原内の種数が少ないほど、遺伝的多様性が高い傾向が見られた。
今後これらの情報をもとに、優占して保全すべき湿原を検討する。