| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-165 (Poster presentation)
光合成をする独立栄養植物は、光環境に応じて葉の形質を変化させる。このような光順化は植物が異なる光環境に適応するための中心的な機構である。一部の林床植物は光合成と同時に、根に共生する菌類からも炭水化物を獲得することが知られている。しかし、このような部分的菌従属栄養植物が光環境に応じて菌従属栄養性や葉の形質をどの程度変化させているのかについてはほとんど分かっていない。そこで本研究では、部分的菌従属栄養植物であるキンラン類を対象に、生育場所の光環境と菌従属栄養性や光順化の関係を明らかにすることを目的とした。
東京大学柏キャンパスとこんぶくろ池自然博物公園に自生する開空度の異なるキンラン個体を対象に光合成測定装置を用いて最大光合成速度や弱光条件下での光合成速度を測定した。また葉面積当たりの葉の乾燥重量(LMA)やクロロフィル濃度、窒素濃度をもとに光順化の有無を検証した。さらに、葉の炭素安定同位体比(δ13C)を測定し、菌への炭水化物依存度を推定した。
開空度とLMAには弱い正の相関が見られた。一方、開空度とクロロフィル濃度には負の相関が見られた。一般に光合成系タンパク質の構成元素である窒素はその量と光合成能力に高い相関が見られるが、開空度と窒素濃度には相関は見られなかった。また、最大光合成速度は開空度10%付近で最も高くなり、それよりも明るい環境下では低下した。植物種によって適応可能な光強度の範囲は異なるが、キンランにとっては開空度25%付近で強光阻害が起こり、葉緑体成分が損傷を受けて光合成活性が低下している可能性が示唆された。
さらに、開空度と葉のδ13Cには正の相関が見られた。一般に菌のδ13Cは植物よりも高く、菌への炭水化物依存度が高いほど植物のδ13Cは高くなる。今回の結果はキンランが菌への依存度を上げて暗い環境に適応しているわけではないことを示している。