| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-166 (Poster presentation)
外来植物が侵入地において侵略的になるメカニズムを理解するためには,生育環境の変動に対する柔軟な表現型可塑性の特性や大きさ,その適応的意義を解明することが重要である.北米原産の外来植物であるキク科のオオブタクサ(Ambrosia trifida L.)は日本国内における最大級の一年生草本であり,各地の畑地や河川敷で繁茂している強害雑草である.オオブタクサが競合条件下で示す表現型可塑性には様々なものが知られているが,その適応的意義を説明した研究は多くない.本研究では,畑圃場に生育密度の異なるオオブタクサ群落を用意し,種内競合に対する個体の形態的・生理的な変化を観察した.その中でも,オオブタクサが高密度で生育したときに葉の更新速度が増加する現象に着目し,個葉が展開してから枯死するまでのSPAD値,光環境および光合成の動態を観測した結果から,この現象の適応的意義を考察した.
信州大学農学部構内の畑圃場にオオブタクサ高密度群落(100個体/m2),低密度群落(20個体/m2)を用意した.6月に展開を始めた幼葉をそれぞれの密度条件で30枚ずつマーキングし,個葉が枯死するまでSPAD値およびクロロフィル蛍光パラメータの測定を継続して行った.得られたSPAD値と蛍光パラメータのFv/Fmを用いて葉寿命を定義し,高密度群落と低密度群落で葉寿命を比較した.加えて,個葉の光合成量と葉寿命の関係を密度条件間で比較した.
一連の調査から,オオブタクサが密生すると群落内の光環境は暗くなり,弱光条件に晒され光合成量が少なくなった葉が優先的に枯死することが分かった.特に高密度群落の個葉は光合成量が多い場合でも葉寿命が短くなる傾向にあった.高密度群落では養分競合が被陰による葉寿命への影響を大きくしていたと考えられる.オオブタクサは密生に起因する弱光条件や貧栄養条件に対して葉寿命を適応的に変化させていたと考えられる.今後はこの特性の大きさを様々な雑草種と比較する予定である.