| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-171 (Poster presentation)
膜内外の水分子の輸送を担うアクアポリンの中でも細胞膜局在型アクアポリン(PIP)は、植物にとって生理的活動を維持するだけでなく、環境ストレス応答に関連する因子として注目されている。ハツカダイコン由来のアクアポリンRsPIP2;1を導入したユーカリで光合成速度が向上し、水利用効率や成長性が高くなったという報告がある。また先行研究により、乾燥ストレス応答におけるPIP型アクアポリンの関与が示唆されている。これまでに乾燥ストレスとPIP型アクアポリンとの関係について研究が行われてきたが、その多くは主に土壌乾燥に目を向けてきた。
本研究では大気の乾燥ストレスに着目し、大気飽差(VPD)の変化に対するユーカリの光合成応答にPIP型アクアポリンが果たす役割を明らかとすることを目的とした。実験には、非形質転換体ユーカリと、ハツカダイコン由来のアクアポリンRsPIP2;1を過剰発現させた形質転換体ユーカリを用いた。葉レベルで6時間の大気の乾燥ストレス(VPD=2.02 kPa)を与え、光合成パラメーターの応答とPIP型アクアポリン発現量の変化について時間を追って測定した。Li-6262(Li-Cor, USA)またはLi-7000(Li-Cor, USA)を含むガス交換測定装置を用いて光合成測度(A)、気孔コンダクタンス(gs)、蒸散速度(E)を測定し、ハツカダイコン由来RsPIP2;1およびユーカリ内在性PIP1、PIP2をターゲットとしてqRT-PCR法およびRNA-seq法を用いて発現量を測定した。
大気の乾燥ストレス下でのPIP型アクアポリンの発現量とAおよびgsについて、それらの減少率には正の相関がみられた。また、形質転換体はgsやEが低いものの、大気の乾燥ストレス下でもAを高く保った。
以上の結果より、ユーカリにRsPIP2;1を導入したことで、大気の乾燥ストレス下でも水分損失を抑えながら高い光合成能力を維持することが出来た可能性が示唆された。